明治大学名誉教授で日本古代史分野の
代表的な学者である吉村武彦氏。その近著(『大化改新を考える』平成30年)に、孝徳天皇(36代)の即位(645年)に当たり、大嘗祭が行われたかのような記述がある(10ページ)。これには驚いた。江戸時代の国学者、河村秀根(ひでね)らの『書紀集解(しっかい)』(1785年に成立)の旧説を、そのまま無批判に踏襲しているからだ。大嘗祭の成立は691年。持統天皇(41代)の即位に伴って行われた(拙著『天皇と民の大嘗祭』平成2年など参照)。それより半世紀近くも前の孝徳天皇の時代に、大嘗祭が行われるなんてあり得ない。別に、江戸時代の説“だから”踏襲してはならないと、単純に考えている訳ではない。本居宣長のカミ(神)の定義をはじめ、長く継承されるべき優れた見解も、勿論ある。だが学問上、とっくに克服されたはずの旧説を、検証もせずに踏襲しているのが残念なだけだ。恐らく、直接には日本古典文学大系、又は新編日本古典文学全集に収める日本書紀の注解(前者は昭和40年、後者は平成10年に刊行)あたりを、安易に採用してしまったのだろう。
私も用心しなければ。